小説『テスカトリポカ』を読んだ:インターナショナル・ウシジマくん×アステカ信仰な世界観のクライムノベル

 

 

作品メモ

テスカトリポカ 2021年2月19日発売 著:佐藤究 出版社:KADOKAWA 560ページ

近所のデカブックオフで買った

メキシコのカルテルに君臨した麻薬密売人のバルミロ・カサソラは、対立組織との抗争の果てにメキシコから逃走し、潜伏先のジャカルタで日本人の臓器ブローカーと出会った。二人は新たな臓器ビジネスを実現させるため日本へと向かう。川崎に生まれ育った天涯孤独の少年・土方コシモはバルミロと出会い、その才能を見出され、知らぬ間に彼らの犯罪に巻きこまれていく――。海を越えて交錯する運命の背後に、滅亡した王国〈アステカ〉の恐るべき神の影がちらつく。人間は暴力から逃れられるのか。心臓密売人の恐怖がやってくる。誰も見たことのない、圧倒的な悪夢と祝祭が、幕を開ける。第34回山本周五郎賞受賞。

読んだ理由

・おすすめ本のツイートがTwitterに回ってきたため購入した。2月くらいに買ったけど、ようやく読み終わった(笑)

感想

 「インターナショナル・ウシジマくん」たるストーリーで大変好み。亡国の麻薬密売人と医学界を追われた天才外科医と天涯孤独の移民2世を中心にしたクライムノベルである。そして古代アステカ文明の思想が物語に関わってくることから、どこか神聖みを帯びた作品として仕上がっている。

 アングラ/裏モノ的な話が俺は好きである。出会いは小学生のころ、帰省先の叔父の部屋に置いてある、いわゆる「ワンコインコミック」である。こっそり叔父も両親も寝静まった夜にこっそり読んでいて、オカルトなりアングラなりへの興味が形成されてしまったわけである。絵柄ゆえの胡散臭さがどこか心に残っている。いまは小学生でもSNSへアクセスできる時代であるから、こういう話にもアクセスしやすいんだろうな~と思う。良し悪しは、きっと悪しのほうが多いんだろうけど。

拾い画だけどこんなやつ。うさんくせーけど好きだった

 何が言いたいかというと、このころ読んだ胡散臭い「ワンコインコミック」のアングラの世界観が本作では丁寧に描かれている。加えて描かれる舞台は日本だけではなく、インターナショナルである。日本の暴力団や半グレだけでなく、中南米の麻薬カルテルから東南アジアのチャイニーズマフィアまでが描写される。さらにストーリーの根幹にアステカ神話が据えられるため、神聖を帯びていく。脳内で描写される絵柄は、ワンコインコミックやウシジマくんのようなものではなく、どちらかというかダークでノワール的なアメコミ絵柄がイメージされる作品であった。これがわりとしっくりくる表現である。

 物語のサマリーをする。メキシコで抗争に追われた亡国の麻薬密売人が、インドネシアへ流れつく。これまた日本を追われた天才外科医と出会う。亡国の麻薬密売人は、祖国で教わったアステカ信仰と臓器売買を結び付ける新しいビジネスを川崎で始めていくが――。みたいな話である。その犯罪シンジケートを軸にした話と、麻薬戦争で祖国を追われたメキシコ移民2世を軸にした話の二軸で物語が進んでいく。いずれにしても、物語が前に進んでいく原動力はスゴイ。ところどころ描写されるアステカ信仰が多少鬱陶しく感じる部分もあったが、ふたつの軸が交わる中盤から後半にかけては一気に読み上げることができた。

 前段に書いたアングラ/裏モノが面白いのは、真偽のほどはさておき、自分が過ごしている日常生活の裏に「えっ!?こんな世界があるの?!」という感想を抱けるからだ。綿密で具体的な描写が多いほど現実味が増し、面白さを感じる。この作品は地名なり装備なりにヒジョーに具体的な固有名詞が出てきて、細かい一挙一動の描写までをしていくれるので、本当に存在する世界として脳内で描写されていく(本当に存在するんだろうけど)。また、細かい描写がゆえの暴力描写も多々含まれていくわけだが、そこがアステカ信仰と結びついていき、どこか現実との境界があいまいになっていく。基本的には現実的な描写なんだけれど、ある段階では古代信仰を描いた神秘的な描写になってきて、何を読んでいるのかわからなくなってくる。クライマックスは、いよいよその境界がわからなくなってきて、古代アステカ信仰が現代日本で復活したかのような錯覚を覚える。う~ん面白い。固有名詞がメチャクチャ出てくるがゆえに序盤で躓いて読むのに3か月くらいかかったけど(笑)

 思うにこの小説は、「資本主義」と「無垢性」の話である。現代資本主義のネットワークを伝って古代アステカ信仰と結びついた麻薬密売人の思想は広がっていき、現代資本主義の闇を隠れ蓑として犯罪シンジケートが育っていく。「無垢性」はこの物語のキーワードである。麻薬密売人は無垢な子どものころに、アステカ信仰を(それはそれは都合の良いように)叩き込まれてしまったことで、この物語は始まっていく。また、この物語を終わりに導いていくのも、天涯孤独の移民2世の少年の無垢性である。イノセントな子どもたちをどういうふうに染めていくのかは、環境とか世の中とか大人たち次第なんだな~という感想を抱いた空母ポンタヌフであった。

 あと、「マクアウィトル」という武器をはじめて学びました。カッケー!!! ゲームで出てきたら積極的に使っていく。

マクアウィトル