映画『哭悲/THE SADNESS(2022年)』を観た:スプラッタームービーとしては言うことナシ!!だけど設定がチョットもったいない

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作品メモ

『哭悲/THE SADNESS』 2022年7月1日(金)公開 100分 監督:ロブ・ジャバス

少し転職活動が落ち着きだしたので仕事終わりにふらっと観に行った

謎の感染症“アルヴィン”に対処してきた台湾。感染しても風邪に似た軽い症状しか現れないことからアルヴィンに対する警戒心が緩んでいたが、突如ウイルスが変異する。感染者たちは凶暴性を増大させ、罪悪感を抱きながらも殺人や拷問といった残虐な行為を行い始める。こういった状況の中でジュンジョーとカイティンの二人は離れ離れになる。感染者の群れから逃れて病院に立て籠もるカイティンからの連絡を受け取ったジュンジョーは、たった一人で彼女の救出に向かう。

movies.yahoo.co.jp

観た理由

・仕事でイヤなことが多いのでスカッとするかと思い観た。

感想

 中学生のころ、『バイオハザード4』でゾンビという生命体を知った僕は、それ以来ゾンビ系の作品が好きである。厳密に言えばゾンビではなくプラーガという寄生生命体ですが…。まあ広義のゾンビってことで。とはいえ、呪術的原因ではなくウイルスが原因だと定義したことは『バイオハザード』の意義だったりするのかも。平成初期のテレビでやっていたオカルト番組でのゾンビ特集パートは今でも記憶に残っている。カリブ海かどっかのゾンビパウダー的なお話だったと記憶。最近は、『新感染』や『Days Gone』、『今、私たちの学校は…』とかを観たりしているわけだが、やたらと足が速いという新しい性質が付与されており、それがスタンダードになりつつある。今この世の中でマスクが当たり前になったように、ゾンビは足が速いも当たり前となる未来もそう遠くないのかもしれない。

 そんななか、この作品の予告編に出会ったのが数か月前・・・。コロナ禍後のゾンビ映画というだけでも楽しみだったのに、「感染者は理性での抑制が効かなくなり、暴力衝動や性欲が抑えられなくなってしまう。ただ思考力はあるので最も残虐な方法を思いついて実行してしまう。しかも、とてつもない罪悪感も同じく残っているから彼らは涙を流すのだ・・・」というウオオッなんだコレ面白そうだな!!という設定がぶち込まれていた。自分の知る限りではこれまでゾンビ側の自意識なんてものは描かれたことがなく、新しいゾンビ像を提示する作品になるかも!という期待をしていた。

 そんななかプライベートでの転職活動が中休み期間になりはじめたので、仕事終わりにストレス解消も兼ねて観に行ってございました。映画館に行くのも久しぶりすぎて感動しました・・・。

バタフライナイフで新記録を目指す悲しき涙

 結論:パニックスプラッタームービーとしては言うことナシ!!!あれ、「心の中の罪悪感」設定はいずこへ!?!?!? ・・・という感想を抱いた。つまるところ、片手落ち感はややあったものの、いいストレス解消になった。

 いかれたスプラッター映画としては言うことナシだった。やってほしくないことを全部やってくれるゴア表現の数々、最初は目を背けたくなったが途中から血しぶきの配分がおかしくなりだしてきたので、なんか一周まわって面白さを感じるようになってくる。こういったゾンビモノあるあるとして、観たいシチュエーションが次々とやってくる。地下鉄・病院・自宅のなか・山道・・・。いろいろなシチュエーションといろいろな攻撃描写で、人間のイマジネーションはすごいと感じた。

 また、バイオハザードよろしく追跡者のオッサンがいい味を出している。「ブチハメてやる」的なほかの映画の字幕では一生観ることはないだろうキモセリフを吐きながら執拗に追いかけてくる。やっぱ敵はしゃべるほうが良いね・・・ということを実感した。不愉快さが増せば増すほどほど、最後のカタルシスは高まるわけだ。転職活動も一緒かもね。現職がイヤであればイヤであるほど、そのときの喜びはひとしおなのかも。頑張ろうと思いました。ありがとうオッサン。

今作のMVPである追跡者おじさん

 「黒目で笑顔で血まみれ追いかけてくる」という感染者ビジュアルは素晴らしい。それに相対する主人公カップルの演技もいい。ところどころ出てくる仲間もキャラ立ちがしており、全体的にはヒジョーに満足できたわけです。

  とはいえ、先般に述べた「感染者は理性での抑制が効かなくなり、暴力衝動や性欲が抑えられなくなってしまう。ただ思考力はあるので最も残虐な方法を思いついて実行してしまう。しかも、とてつもない罪悪感も同じく残っているから彼らは涙を流すのだ・・・」という設定は、そんな設定ありましたっけ? という感じだった。序盤にサングラス男が涙を流すくらい。そこを深堀してほしかったと感じたポンタヌフであった。

 ゾンビ映画は、仲の良い周りの人々が変貌してしまうことに恐ろしさがある。電車の隣に座っている人が、実は恐ろしい暴力衝動を抑えているかもしれないという、この世の中はみんなの理性という薄氷のうえで成り立っていることを実感する。特にコロナ禍でそれが露呈した世の中で、なかなかに世知辛い感は増していると思う。

 そこにプラスアルファのテーマ性を付与できる良い設定だと思った。自分の同胞を罪悪感を持ちながらも自ら意思に反して攻撃せざるを得ない、みたいなものは、世界各地で起きている戦争と重なるテーマでもある。そしていま現在では、残念ながら戦争は空想上のできごとではなく、普通に起きうる出来事となっている。そして台湾なら、これも残念ながら、殊更にそうだ。そんな示唆を、好きなゾンビ映画が感じられたらなおよかった。(予告編を見たヘンな期待だったのかもしれないけれど)

 ラストシーンは、どうもそのような示唆があったと思った。もし似たような映画が出てくるのなら、上記に書いたような設定を深堀したストーリーだと嬉しいなと思った空母ポンタヌフであった。