映画『女神の継承(2022)』を観た:じとじとしたアミニズム的ホラー映画

 2022年夏休みホラームービー『哭悲』『呪詛』と並んで楽しみにしていた『女神の継承』を観てきましたので、感想を書いていきます。

 

映画『女神の継承』 公式サイト - シンカ

作品メモ

『女神の継承』(原題:The Medium) 2022年7月29日(金)公開 131分 バンジョン・ビサンタナクーン監督

タイ東北部、イサーン地方。その小さな村に暮らす女性ミンが突如体調不良に陥り、それまでの彼女からは想像できない凶暴な言動を繰り返す。ミンの豹変になす術もない母親は、祈祷師をしている妹ニムに救いを求める。ニムは、ミンが祈祷師を受け継いできた一族の新たな後継者として何者かに目され、取りつかれたために苦しんでいるとにらむ。ミンを救おうと祈祷を始めるニムだが、憑依している何者かの力は強大で次々と恐ろしい現象が起きる。

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観た理由

・夏休みの思い出が親不知抜歯だけになりそうだったから。

感想

 暑い夏といえば心霊の季節である。私が子どもの頃は、夏休みといえば祖母の家で扇風機を回しながら、心霊番組を観ていたものである。ホームビデオや友達の動画に移りこむ霊と思しき影…。「イワコデジマイワコデジマほん怖五字切り!!」をしたくなる。

子供のころのおもひで

 そんな夏のあの頃を思い出すのがモキュメンタリー風PoVホラーの『女神の継承』である。舞台はタイ北東部、おそらくタイのなかでもバンコクチェンマイといった都市部とは異なる原風景が広がっている地方が舞台である。

 タイ北東部の土着信仰である女神・バヤンの巫女である祈祷師ニムに対するドキュメンタリーとして物語は始まっていく。ニムへのインタビューや密着撮影から、女神の巫女は代々継承されていたことがわかっていく。ある日、祈祷師ニムが義理の兄の葬式へ参加する。その場で、姪であるミンの様子がおかしいことに気づく。そして段々とミンの様子が豹変してきて・・・というアジアンエキゾチック呪術ホラーである。

 一言で感想を言うなら・・・出だしは少し退屈だがラスト1時間はメチャクチャ怖くて目を背けたくなったじっとりホラー映画!!!というような感じでした。

ドキュメンタリー方式の面白さ

 この作品で特筆すべき点は、ドキュメンタリー方式であることである。正直前半はホラー要素は殆どなく、タイ東北部の祈祷師密着ドキュメンタリーとして進む。タイのお葬式が電飾ギラギラだったり、木造家屋や水田のようすだったり、単純にドキュメンタリーとして楽しめる。このドキュメンタリーの前半パートに時間をかけるからこその「じっとり感」が楽しめる。これが日本のホラーにも通底するような、アミニズム型のアジアンホラーの特徴を感じられる。

 「マジでこれドキュメンタリーとして誰が撮っているのか??嘘だろ~~???」と思うようなカメラアングルも出てくるが、後半のほうでカメラクルーが4人くらい出てくるのでまあなるほどと合点がいく。

 そして中盤、怪奇現象の傍観者だと思われていた撮影クルーが怪奇現象の当事者になる場面が出てくるわけだが、このシーンはびっくりした。撮影クルーの視点はそのまま観客の視点につながるので、そこから怒涛の怪奇現象に巻き込まれていく素晴らしいホラー演出であった。 そして怒涛の後半パートでは、決して我々も傍観者ではいられないのである・・・。

 気になったのは冷静になった時に「これ誰が編集したの?(笑)」と思ってしまう点である。(笑) まあ最近のカメラはクラウド保存ができているからそういうものなんだろうと脳内補完をした。

女神って結局なんだったのか?

 この作品の中核は、やはり女神・バヤンの巫女であるニムが担っている。悪いカルマによって身体を悪くした地元の人々を治療するシーンや、女神の石像の前で祈祷を捧げるシーン。おかしくなった姪っ子であるミンのために、霊媒師的な観点で解決を目指そうとするシーンなど、画面に出てくると安心するメチャクチャ頼りになる存在である。

『来る』の柴田理恵ばりのかっこよさ

 結局のところ、女神とは何だったのか? 女神とは、血筋だとか信仰というものにはびこる呪いのようなもののように思える。先祖代々継承しなければならない何か、血筋だからこそ継承しなければならない何か、のっぺり系田舎がテーマだからこそなのか、そんなもののメタファーのように思った。姉妹の間でどっちが巫女になるかを押し付け合い、そして巫女になったニム自身も、最後のインタビューで「果たして女神を本当に信じてもいいものか」と語るシーンは衝撃的である。

 このような血筋だとか信仰だとか伝統だとかという一言で継承するのではなくて、信じることは自分で選ぶようにならねばならない、ということを描いているようなそんな映画でした。それらの再生産のなかで犠牲になったものたちをドキュメンタリータッチで描いたホラー作品だと思います。