救いと容赦がない国民的アニメ映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』

 

 よくわからないが平成生まれのくせに水木しげるの作品が好きだった自分は、図書館にあった鬼太郎や河童の三平、妖怪図鑑などを読み漁っており、夏休みに鬼太郎のアニメが再放送されていたのもよく見ていた。好きな妖怪は、「しろうねり」と「枕返し」。次点で「小豆洗い」。何が言いたいのかというと、そこそこ水木作品好きとしての立場でこの映画を鑑賞したということである。

 『バイオハザード:ヴィレッジ』×『ガン二バル』×『ひぐらしのなく頃に』という感じで、田舎の一族が支配する村でアレコレが起き、それらが鬼太郎の出生に繋がる…という物語であった。最近の鬼太郎のアニメでは猫娘がかわいくなっていたりキャッチーなキャラクターが出てきていたり、子ども向けにチューニングされているのかな~とも思いながら劇場にいったが、子ども視聴の絶対NGの大人ですら目を背けたくなる人間の業を煮詰めた恐ろしい作品になっていた。金曜の仕事終わりに観るもんじゃねえ。

 田舎の村の有力一族の当主が死んだ。東京血液銀行に勤める水木(墓場鬼太郎の1話を読んでいればこのキャラクタ設定でぐっとくる)は、その当主の義理の息子と懇意にしており、当主交代の場にはせ参じるために村を訪れる。そこで起きる殺人事件と謎の男(鬼太郎の父親です)…。さて、この村にはどのような謎が隠されているのか…。という話であるが、隠されている謎がエグい。道理を外れた外法を使い、幽霊族(鬼太郎父母の一族)の血を原料にしたモルヒネを生産し、村を訪れた人を屍人にして生産プロセスに組み込み、そして村人と一族の女子供は自身の支配下においていた当主。そしてさらに恨み辛みから生まれた妖怪ですらも使役しているというウェスカーも顔負けのバケモノであった。なかなかランキング上位に食い込む因習村ではないか。

 この因習村と隠された秘密の描写がなかなかエグみが強く、救いと容赦がない。ともすれば鬼太郎のルーツも揺らぐようなエグ描写が組み込まれていて、「ウっ…」となるシーンが多かった(ワンピース最新話を思い出した)。このようなヘイトを溜めたぶん、スカッとするような展開が待っているかと思いきや、そこはもともと妖怪漫画なだけあった、スカっと具合が足りず、どこか感情が尾を引く映画になっている。

 とはいえ、鬼太郎の父親(生前というのが適切な表現かはわからないが)と水木のキャラクター設定と関係性がバツグンで、楽しんで見ていられる点である。全体を通じたスカッと具合は足りないものの、中盤の戦闘シーンはなかなかカッコいい。そして水木のニヒルな感じもよい。タバコの吸い方もよいので、タバコが吸いたくなった。そして舞台が昭和30年代であるため、水木も戦争帰りである。この設定が終盤の展開に活きるのに加え、因習村の弱者を食いものにする構造と当時の戦争の構造が重なって見えるシーンもあり、なかなか作品全体の奥行が増している(というよりも原作者の水木しげる自身の体験と重ねたようなものだと思う)。

 とどのつまり、鬼太郎の前日譚として申し分のない作品であったが、 ただ、妖怪が全然出てこないのが心残り! この作品を観て家にある水木作品をかき集めたところ、鬼太郎の1・2巻と総員玉砕せよ、そして妖怪百科が出てきたので、楽しもうと思います。そして振り返ってきたらまた観たくなってきた・・・

 

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