MCUファン向けエンタメドカ盛りの皮をかぶった武力批判映画かもしれない『マーベルズ』

Higher, Further, Faster. Together.

ひとりではたどり着けない、最強へ

規格外のパワーと不屈の心を兼ね備え、ヒーロー不在の惑星を守るため幅広く宇宙で活動していたキャプテン・マーベル。そんな彼女のある過去を憎み、復讐を企てる謎の敵が出現する。時を同じくして、キャプテン・マーベルと、まだ若い新世代ヒーローのミズ・マーベル、強大なパワーを覚醒させたばかりのモニカ・ランボーの3人が、それぞれのパワーを発動するとお互いが入れ替わってしまうという謎の現象が起こる。原因不明のこの現象に困惑するなか、地球には未曽有の危機が迫り、キャプテン・マーベルはミズ・マーベル、モニカ・ランボーと足並みのそろわないチームを結成することになるが……。

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 英語版・日本語版のいずれのキャッチコピーもビビっと個人的な琴線に触れたMCUシリーズの『マーベルズ』を観た! アメコミ好きだから好き! そうじゃなかったら嫌い! という、アメコミ好きの自分からするとまあ楽しめたのだが、評価が悪いポイントも理解できる、そんな映画であった。

 MCUが好きになったのは、新卒で働きだしたあとのことだった。『アントマン&ワスプ』から参入した珍しい経緯であるが、とはいえMCU映画の公開予定は辛い社会人生活の支えになってくれたし、『アベンジャーズ:エンドゲーム』ではとてつもない感動を味わえた。フェーズ4以降も、いつかエンドゲーム並みの感動が味わえると信じて配信作品を含め欠かさず参照しているわけであるが、気づいたらドラマが配信されたりして、MCU熱は少し下がりつつあるのもの事実。供給過多によるクオリティの悪化や過酷な労働環境など悪い噂を聞こえてくるようになり、「いちばん売れている食べ物がいちばん美味しいわけではない」という言葉のように、いちばん売れている映画フランチャイズはいちばん面白いわけではないような気もしてきた今日この頃である。

 とはいえ、MCUからアメコミの世界を好きになったキッカケをくれたことと、おそらく無意識のコンコルド効果から、自分はMCU作品に下駄をはかせて評価をしがち。その観点からいうと、『マーベルズ』、とてもワクワクして面白かったです。面白い理由は、「クロスオーバーをしたから」。あるいは、それを渇望していたから、である。ドラマシリーズのキャラクターと映画シリーズのキャラクターと絡んでいるだけで面白く、さらに物語にこれまでの宇宙系の作品で描かれてきたジャンプポイントやクリー=スクラル戦争も絡んでくるわけで、アメコミ好き冥利に尽きる作品であった。エンドゲーム以降の作品で配信作品とがっつり絡んだのは『ドクターストレンジ:マルチバースオブマッドネス』くらいであり、ファンが渇望していたクロスオーバーと世界観の活用はここに極まれりということで、細かいことを気にせなければ楽しめたエンタメ作品だったと思います。

 MCUという文脈でみるとたいへん楽しめた作品なのだが、一般洋画あるいはキャプテン・マーベルシリーズという文脈でみると、たいへん「?」が残る作品であった。この作品が目指していたことは、最強のスーパーヒーロー、キャプテン・マーベルことキャロル・ダンヴァースの脱神話化、ということだろう。キャロルの大ファンであるカマラ・カーンと、キャプテン・マーベルになる以前からの付き合いがあるモニカ・ランボー、それぞれの視点からキャロルを描くことで、ヒーローとしての自分と自分自身の間での葛藤なり成長なりを描こうとしていたと思うのだが、ヒジョーに限られたシーンしかそのような様子はない。助からない命を見捨てるキャロルへのちょっと失望したようなカマラの表情と、3人で草原の星で話し合うシーンくらいしかない。もっとうまくできたんじゃないのかな~とは思う。

 あとは、キャプテン・マーベルというスーパーヒーローの描き方にビックリした。今作でのキャプテン・マーベル、最強どころか最悪ではないか? 自らがクリー帝国を統治するAIシステムのスプリーム・インテリジェンスを破壊したことにより、クリー帝国は空気と海を失い滅亡の危機に瀕している。仲間に対しては失望されたくないと、その事実から目を背ける(結果論かもしれないが、簡単に解決できたはずなのに、解決しようとすらしない)。自分自身が庇護をしていたはずのスクラル人に対しても、自分が介入したとにより死者を出してしまい、「何もしないでくれ」と三行半を突き付けられる。そしてこれらの行為の帰結として、家族同然の存在であるモニカを失ってしまう。

 この映画だけをみると、キャロルは何も救えず、事態を悪化させただけだった。「スーパーパワーという武力では何も解決できない」という痛烈な政治批判に思えるほど、何も進展せず何も解決しないスーパーヒーロー映画だったなあと思う。クリー帝国とスクラル人との戦争が、なまじ現代の世界情勢に重なるからこそ、とてもそう思った。クリー帝国はスクラル人から資源や水を奪っていくが、それはキャロルが彼らの統治機構を奪ったからである。また、古代からの争いに終止符を打とうしていた当事者に対して介入することによって事態を悪化させるのは、さながらキャプテン・帝国主義者である。パクス・アメリカーナが終焉の時代を迎えつつあるからこそ、これまでのアメリカの武力介入に対する内省的な映画がMCUからも出てきたのかも、しれない。

 何はともあれ、ヤングアベンジャーズ楽しみ!!!