ネッチョリしたスーパー特撮主権在民映画『ゴジラ-1.0』

ゴジラ -1.0 ドルビーシネマにて鑑賞

 特撮大好き少年として過ごして来たワタクシであるが、ゴジラシリーズは、『ゴジラ2000 ミレニアム』とローランドエメリッヒ版の『GODZILLA』しか観たことないという異端少年であった。ただ幼いながらその姿は鮮明に脳裏に焼き付いていたようで、フリーマーケットだか近所のデパートで買ったゴジラのソフビを大事に抱きかかえるくらいには好きだった。そんな少年は大人になったが、モンスターバースと『シン・ゴジラ』はしっかりと劇場で鑑賞し、『ゴジラSP』もしっかりと見届け、最近はゴジラショップで購入した手ぬぐいをポケットに入れて仕事に行くくらいのゴジラ好きのものだという前提で読んでほしい『ゴジラ -1.0』の感想文である。

タイトルの「−1.0」の読みは「マイナスワン」。舞台は戦後の日本。戦争によって焦土と化し、なにもかもを失い文字通り「無(ゼロ)」になったこの国に、追い打ちをかけるように突如ゴジラが出現する。ゴジラはその圧倒的な力で日本を「負(マイナス)」へと叩き落とす。戦争を生き延びた名もなき人々は、ゴジラに対して生きて抗う術を探っていく。

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今回のゴジラ、めっちゃ怖い!!

 というのが全編を通じての感想であり、そしてこの映画への誉め言葉である。今回のゴジラは、最初の10分で人間の殺戮を開始するというシリーズ稀にみるやる気を見せつけてくる。これまではゴジラの登場まで入念な演出を重ねてきた作品が多かったが、今回はもったいぶらずいきなり鳴き声と全身がカットイン!! 神木隆之介演じる主人公にトラウマと観客に興奮を残してプロローグが終了する。ドルビーシネマで鑑賞してよかった~と思った瞬間であった。

 何が怖いって、眼がこわい。何を考えているのかわからないのだけれど、こちらに対して敵意以上の何かが向けられているようなそんな気がします。そんなゴジラは銀座で大暴れをするわけだが、このシーケンスがたまらない。品川方面から上陸したゴジラは、築地・銀座を瓦礫にかえ、日比谷と霞が関を放射熱戦で焼き野原にする。やはり国会議事堂に向かって放射熱戦を吐きキノコ雲を発生させるのはいささか象徴的な気もするが、残念ながらこのような画をモンスターバースではなく邦画で観れた興奮が上回ってしまった。

 この銀座襲撃のシーケンスだけでも劇場鑑賞代の元が取れるし、他のゴジラシーンを含めるとお釣りがくるくらいだ、と思う。敗戦直後なので海で戦うシーンが多いものの、決して迫力がないわけではなく、さながら『ゴジラvsキング』である。立ち泳ぎしているゴジラも一瞬うつるので見逃さないのでほしい。個人的には農村を歩くゴジラはちょっとおもしろかった。

何を描きたかったのか

 正直なところ敗戦直後という舞台設定は、山崎貴の旧日本軍の軍艦や戦闘機を出したいという趣味先行であると思うし(そのおかげでこれまでのノウハウが遺憾なく発揮されて最高の映像表現にはなっているのだが)、かつゴジラはそれ自体を描くことに意味があるので意味のためにゴジラが描かれたわけではないと思う。

 とはいえ、「過去のトラウマからの脱却」というのを超スケール(と長い人間ドラマ)で描いている作品なんだろう。神木隆之介演じる主人公はこれまで逃げてきた自分を脱却し、吉岡秀隆演じる学者は軍隊で兵士の死を前提とした兵器を開発したトラウマを脱却し、佐々木蔵之介演じる船長は……ネッチョリした演技すぎてよくわからなかったものの、たぶん「生き残ってしまった」という悔恨の念を抱いているんだろうきっと。

 そして戦争を生き延びた名もなき人々も、大日本帝国からの脱却ということで、「主権在民」パワーでゴジラを撃滅していく。最後の海に沈んでいくゴジラに敬礼するシーンは、なんか旧日本軍の軍隊の幽霊を敬礼して成仏させる自衛隊の怖い話を思い出したけれど、過去と決別したシーンなんだろうなあと思ったわけである。

とはいえ!!

 とはいえ、全体的にネッチョリしている映画でもあるのは確かだ。神木くんが感情的な仰々しい演技なのは、傷痍兵ということで(まだ)理解できる。問題はそのテンションにみんなが合わせているため、みんなネッチョリしていることがきつい。まあ敗戦直後なのでみんな心にトラウマを抱えているんだろうけど、ネッチョリしている。ネッチョリしている以外の表現が思いつかない。あと、作戦とか口で説明しすぎ。特に東京湾ゴジラを足止めする際の、学者と船長の会話が説明口調できつかった。大正時代から生き延びた炭次郎か?

 このネッチョリ感はたぶん大人には合わないんだろうけど、誰もが楽しめる大衆娯楽作品としてのチューニングなんだとは理解する。そのチューニングのおかげで、あまり難しすぎないのはたしかだ。最後のフロンガスの加圧減圧のよく考えると「?」な作品も、作戦室でも説明と図解でわかりやすくなっている。

 思うに、このネッチョリ感は、今を生きる子どもたちにもこの作品が届くように仕上げたがゆえなのだろう。これから大人になっていく特撮キッズにゴジラとメッセージを伝えるために作品を仕上げた、と考えると、きっちりとした仕事だった感じたポンタヌフであった。そして所々で出てくる「誰かが貧乏くじを引かないといけないんだよ!」というセリフは監督の心の声のように感じた(笑)

 ただし飲み屋で「なんで嫁にしないんだよ!!」というシーンと夜の家で大声で神木隆之介浜辺美波が叫びあうシーンはちょっとキツカッた。本作品の最後をみると、浜辺美波ゴジラ細胞の人造人間になってしまったようなので、続編はハードSFでよろしくお願いいたします!!