マンガ実写化の金字塔となった『ゴールデンカムイ』

 山崎賢人、実写「ゴールデンカムイ」に主演! アシリパは山田杏奈、尾形は眞栄田郷敦【映像あり】 : 映画ニュース - 映画.com

 

 漫画の実写化はコケるというジンクスを打ち破った漫画実写化の金字塔になりうる作品になったのではないか!? ゴールデンカムイだけに、という高評価を与えたい作品である。ジョジョなり斉木楠雄なりキングダムなり様々な漫画実写化作品に出てきた山崎賢人であるが(どれも観てない)、なんかこの作品がひときわ輝いているんじゃないでしょうか。

 『ゴールデンカムイ』の原作は、最終話まで一気見をしたことがある。全体としては楽しむことができたのですが、途中からなんか冗長さも多少は感じてしまっていたが、その要因として登場人物が増えてきてなんか主要キャラクターとモブキャラの顔の見分けがつかなくなってきて、なんか途中で流し見をしていた記憶がある。原作を読んでいたときの印象は、緩急がすごい作品だと感じておりました。アイヌ飯を食べていたと思ったらみそをうんこと見間違えて追手の陸軍と殺し合いをするとか、なんか日常とシリアスとギャグとアイヌの四点を動き回る、まるで数学の文章題の点Pのようなせわしない作品のような印象があった。モブと主要キャラクターの見分けはつかなかったものの、主要キャラクターのキャラ立ちはしっかりしていて、かなりクレイジーなキャラ造形が多い。つまるところ『ゴールデンカムイ』原作は漫画だから成り立っている要素がたぶんに含まれており、そういうわけでほとんどの人が映画『ゴールデンカムイ』は約束された爆死を予想していたのではないか、と思う(大変失礼だけど)。

 ところがすべての要素が上手く噛み合っているエンタメ傑作となっておりました。この映画は日露戦争203高地の旅順攻防戦の描写から始まるのですが、日露戦争への出兵がこの映画の全体を貫く良い感じの背骨になってくれていたような気がします。杉本自身も戦争によって喪ってしまったものが行動原理の背景にあり、第七師団率いる鶴見(玉木宏の鶴見はめちゃくちゃハマり役でしたね)の行動原理も軍部に絶望したがのゆえの行動である。そしてイケオジ最高峰の舘ひろし土方歳三も言わずもがなの明治新政府旧幕府軍との戦争が影を落としているわけだし、そもそもこのゴールデンカムイという物語自体も、北海道・樺太・千島に住むアイヌ民族を始めとした少数民族が日本・ロシアという国家に併呑されてしまった歴史が生み出した物語である、ともいえる。そんな戦争や血で濡れた歴史の影がチラチラと現れて登場人物に影を落としながらも、決してそこまでは本テーマになりすぎやせず、エンタメ大作としてきれいにまとまっている作品であった。

 キャラの強い主要キャラクターはさながら漫画と遜色のないよう気がしたが、それは上手いこと「ケレン味」のコントロールがすこぶる上手い。フツーに考えたらこんなことは有り得ないのだけれども、たとえば舘ひろし演じる土方歳三と牛山が邂逅するシーンでは、両俳優の凄みの効いた表情と声と暗みが勝った小樽の女中に雰囲気が相まって、なぜか現実味を感じる。この映画に出る俳優陣の説得力のある演技と、衣装や小物や背景など明治時代の北海道を感じされるこだわり、特にスクリーンから寒さが漏れてくるような雪山のロケーションなど、映画全体によって上手いこと調整されたことによって、この映画は絶妙なリアリティラインを保っている...と思った。だから画像とか予告だけでみるとなんか微妙そうに見えてしまうんだろうな。

 アクションもしっかりしており、話の進み方の退屈しない程度に緩急がついており申し分ないエンタメ大作である。原作のゴールデンカムイを読んでアイヌ文化に興味を持ち、わざわざ北海道に行ってアイヌ料理を食べてきた当方にとっては、この映画が世間一般に対するアイヌ文化に興味を持つきっかけになってほしいと思う。いまの日本人で「知っているアイヌは?」と聞かれたら、ゴールデンカムイを除いたらホロホロかシャクシャインしかいないのではないの。みなが通った中学の社会の時間に北海道旧土人保護法を習った際の衝撃を思い出せ自分ごとと考えるためにも、できればアシリパアイヌルーツの俳優を配役することができれば、アイヌ文化だけでなくアイヌと日本人の関係性を考えるきっかけにもなってような気がするのであった。山田安奈のアシリパは最高だったけど。

 WOWOWが製作に入っているとのことで、続編が映画ではなく連続ドラマだったらブち切れることここに主張します。