権威主義を打倒せよ!!な『ウィッシュ』を観ました

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 ディズニー100周年記念作品である『ウィッシュ』を観てきた。まさに“““”ディズニー100周年記念作品“”“”という感じであった。結論からいえば、フツーに涙を流してしまったのでまあ満足である。

 ディズニー・アニメーションに関わる思い出は、きっと誰しもが持っている。そのため、同時上映される短編『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』のほうが感動したかも。エンターテインメント界の巨人としてこれまで培ってきたキャラクターがこれでもかと飛び出して、100年間で培われたIPの力をまじまじと見せつけてくる。名前の分かるキャラクターもいれば、「あ~名前は知らないけど見たことあるな~」とか「子どものころ見てたことあるな~」みたいな感じのキャラクターもいる。さらにこれに加えてピクサー・マーベルスタジオ・ルーカスフィルム21世紀フォックスなどの権利もあるので驚きである。ある意味最強の企業である。こういうキャラクターがたくさん集まりクロスオーバーする系に弱いので(夏休みにジャンプアニメのキャラクターがコラボするみたいな)、めっちゃ面白かったです!!

 さて本編の話。人々は18歳になると「願い」を王様に差し出す国ロサス。王様は差し出された「願い」を厳重に管理し、みなの願いを叶えていく。人々は王を信じて自らの国が願いの叶う魔法の王国であることを信じて疑わない。ある日、主人公のアーシャは、王の真実を知ってしまう。王は、自分にとって都合の良い「願い」しか叶えることはせず、都合の悪い「願い」は一生叶うことはないことを知る。真実を知ったアーシャは、「みんなの願いをかなえたい」と星に願いを託す。そんな願いに惹かれて夜空からスターが舞い降りる。スターの持つ魔法の力によって、アーシャは王に託されたみんなの「願い」を解放するために奮闘する...という物語である。

 「願い」を差し出した人々は、自分がかつて何を望んでいたかも忘れてしまう。そして自分の本当の「願い」が何であったかを知ることすら恐れてしまう。そして定期的な願いを叶えるイベントによって、マグニフィコ王は国民からの名声と指示を強固なものにしている。ある一定の権力者が権威的な社会システムを構築して人々を支配していく構図は、まぎれもなく現実世界に通底するものであり、2023年の今現在の現実世界でも私たちが目の当たりにしていることではないだろうか。そしてそんなマジカル管理国家ロサスに介入するのは、外部からやってきたスターである。否が応でも星条旗が頭にはためく。そんなスターの力を借りて、主人公であるアーシャは体制にノーを突き付け、民衆の力によって独裁者マグニフィコ王を打倒していく。そしてスターは、ほかの国の人々を守るためにロサスを去っていくのだ...。「God bless America!!」と叫ばずにはいられない物語である。

 このあとのロサスには何が待っているのか。「願い」が管理されていた時代は、少なからず「願い」は(管理のもとではあるが)叶っていた。「願い」は自らの力で叶えるために努力をしなくてはならず、そして決して叶わない願いもあると人々は知っていく。そして願いを叶えるためには、人々は他の人と争わないといけないこともきっと知る。このあとのロサスは、きっと大きな変化に直面するのだろう。マグニフィコ王にも最初は崇高な理想があったけれど、どこかで現実と折り合いをつけたり人々の声を聴いたりして、いまの社会システムになったのかもしれない。魔法の杖をアーシャに託して去っていくスターの姿は、体制転換後の現地人による新政府を設立する米軍のようである。「God bless America!!」と叫ばずにはいられない物語である。

 「「夢」と「願い」の力を信じて、奪われた「願い」を取り戻していく」というテーマは、非常に力強いものであるし正しいものだ。100周年記念作品なのでわかりやすくシンプルにそのテーマを描くのも理解できる。ただしシンプルイズザベストではあるけれども、それがゆえに主人公やほかのキャラクターの心情の変化がとぼしく、なんとも感情移入しにくく物語に深みがない。たとえばアーシャが「「願い」が管理されている社会もこんな良さはあるんだけど、それでも私はノーを突き付ける!!」みたいな葛藤があっても良かったんじゃないかなと思う。これがあれば去っていくスターをみて現実世界のアメリカのことを思い出さずに、涙ながらにきれいなものだけを観て見送ることができたと思う。

 とはいえ、現実世界の権威主義的な国・組織における人々の支配を夢と魔法の世界にエンターテインメントとして映し出して楽しくみせているのはさすがディズニーであるし、曲中で流れる音楽はどれも素敵なものだ(当方、字幕鑑賞です)。最後の曲のリプライズバージョンは普通に涙しました。そしてこの物語がすべてのディズニー物語の祖に位置付けられるみたいな話も胸アツだった。アーシャのお爺さんの願いが叶って「星に願いを」という名曲ができ、アーシャのロバの願いが叶ってズートピアという物語ができたんだろう。そう考えると、「願い」とか「夢」とか「こうありたい」みたいなものはとても美しいものだ、ということは実感して劇場を後にすることはできた。

 200周年記念作品では、これまで出てきたディズニーキャラクターがこれまで出てきたすべてのヴィランキャラクターに立ち向かい、このウィッシュの劇中歌をうたって願いの力で撃退する物語を強く期待したい。そしてきっとそこにはディズニーだけでなく、マーベルやピクサールーカスフィルムのキャラクターも大集合し、圧倒的なキャラクターIPの力で観客をねじふせる映画を作ってほしいと思うポンタヌフなのであった。