脇役は決して主役になれない、ポケモンSV「ゼロの秘宝」への批判

ふるいちオンライン - 【オリジナル特典付き】ポケットモンスター バイオレット+ゼロの秘宝

 

 久方振りにポケットモンスターにハマり直したのが第9世代の『ポケットモンスター スカーレット・ヴァイオレット』であった。当方は『バイオレット』を購入しプレイしていた。

 

タイトルを見るたびにワンピースのこのを思い出してしまう

 ポケモンプレイヤーのなかには対戦ガチ勢や色違いガチ勢などもいるわけであるが、当方は対戦よりもシナリオや世界観がとても気に入っており、ゲームプレイとしては図鑑埋めを目標にやっているいわゆるエンジョイ勢である。前作の『ソード・シールド』は本編は図鑑コンプリートをしたものの、DLCの図鑑は埋めずに気づいたらメルカリで売ってしまっていた次第である。

 今回はその雪辱を晴らすぞと意気揚々と購入したのが、『スカーレット・バイオレット』DLCである『ゼロの秘宝』である。前編である「碧の仮面」と後編である「藍の円盤」をクリアしたので、感想文を書き記しておく。なお、これを書いている時点でのプレイ時間はすべて合計して80時間くらいで、バイオレットでは手に入らない2体(タケルライコとウガツホムラ)で図鑑コンプリートまで進めた。誰か交換してください......。と書いていたらTwitterの優しいひとが交換してくれた。サンキュー!!

 さて、前作のDLCである「鎧の孤島」と「冠の雪原」には、新規の伝説ポケモンであるウーラオスとバドレックスを軸にシナリオが展開していた。また、本編で登場したキャラクターや世界観に関連するような描写もあり、当然ながら対戦環境を一変させるための新規ポケモンのシリーズ導入という側面もありながら、エンジョイ勢もじっくり楽しめる造りとなっていた(もはや遠い記憶ですが)。一方で、今回のDLCは『スカーレット・バイオレット』本編でのシリーズの見直しを前提としている。すなわち、ゲームシステムの「オープンワールド化」であり、そのためにシナリオも学園生活を軸としたものに変更された。そのため、今回のDLCにおいて、前半の「碧の仮面」ではキタカミの里へ林間学校へ参加するという設定となり、後半の「藍の円盤」ではブルーベリー学園へ交換留学へ行く、という本編での設定を前提としたものになっている。

 

前編「碧の仮面」:民間伝承とポケモン

 前編の「碧の仮面」は、主人公がキタカミの里への林間学校へ参加することから物語が始まる。スペインをモデルとした本編の舞台であるパルデア地方と異なり、日本の田舎を舞台としたフィールドとなっており、かなりの新鮮味を感じる。配信時期が9月であったことと日本の田舎というフィールドも相まって、個人的にはポケモン版「ぼくのなつやすみ」を想起しました。こんな世界だったら田舎への帰省もめちゃくちゃ楽しいんだろうなあ...と思います。

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 新規に登場するポケモンも、このような世界観を意識したポケモンたちばかりで、どこか「和」の雰囲気がただよっている。住民とポケモンの共生状況も伺える描写も多く、世界観の拡張に成功している。個人的にはダーテングキュウコンヨマワルなど、日本の妖怪モチーフのポケモンが追加されているのが好き。そして新しくこのDLCのためにデザインされたポケモンも、ヤバソチャやガチグマなど、「和」のコンセプトを見て取れる。桃太郎と鬼をモチーフにした、伝説のポケモンたちも況やである。

 そして肝心のプロットは、里に伝わる民間伝承であるともっこ伝説を、里でできた友人であるゼイユとスグリと紐解いていく...というものである。キーポケモンであるオーガボンを軸に据えながら、新しいフィールドと深堀していきながら、本編のテラスタル要素を絡めていくというシナリオになっている。

 「碧の仮面」は、目新しいフィールド設定でプレイヤーを惹きつけ、さらにそのフィールドを深堀しながら本編要素への伏線も張っていくというストーリー展開であり、さらに新キャラクターであるゼイユとスグリの関係性によって後編の興味も引き立たせるという、なかなかというよりもとても楽しめるものになっている。

そして後編の「藍の円盤」は...

 その一方で、後編の「藍の円盤」は、厳しい評価を下さざるを得ないのが正直な感想だ。新しくスカーレット・バイオレット環境に新しいポケモンを導入することを優先したDLCのように思える。

 「藍の円盤」は、イッシュ地方にあるブルーベリー学園へ交換留学をしにいくことから物語は始まる。ブルーベリー学園は「碧の仮面」で出会ったゼイユとスグリの通う学校である。前編での経験をもとに強さを追い求めるようになったスグリは、ブルーベリー学園のリーグ部のチャンピオンとして君臨するようになった。交換留学生としての強さを見出された主人公は、リーグ部に所属してチャンピオンとなったスグリに挑む...という物語である。これ以上でもこれ以下でもなく、単純に四天王と言われる強いキャラクターと対戦し、そしてスグリと対戦すれば物語は終わる。 その後は取ってつけたようなパルデアの大穴でのイベントが発生し、取ってつけたように伝説のポケモンであるテラパゴスが出てきてエンドロール...。え、これで終わり? というのがプレイ後の感想である。単純に順を追って敵トレーナーを撃破していくのは、すでに何回も本編シリーズでやってきたことである。今回の4人という少ない人数であれば、まあ単調な作業ゲー感はぬぐえなくなってしまう。ゲームシステムやデザインが一新されていればまた新しい気持ちで楽しめるとも思うが、バトルスタイルがダブルバトル固定になっただけ...。ゲームシステムの面でも、シナリオの面でも、前編ほどの新鮮味を感じることはできず、単にプレイしただけ、というのが全体的な後編全体の感想だ。

 そしてフィールドとシナリオにも、それぞれ文句を言っておこう。

 まずフィールドは、先ほども述べたとおりブルーベリー学園が舞台である。ブルーベリー学園は海底の資源開発プラントに併設するかたちで建築されており、外界とは断絶した環境である。そんななかでどのようにポケモンが出てくるかというと、人工的にポケモンの生育環境を再現した「テラリウムドーム」が舞台となる。「テラリウムドーム」には、草原・山・海岸・雪山の環境を模した4つのフィールドに分かれており、それぞれでポケモンを飼育している。それらのポケモンは、BP支援をすることによって御三家がフィールドに追加されることからもわかるように、学園側によって外部から連れてこられ、このテラリウムドーム環境に適応させていることがわかる。また、各地方のリージョンフォームのポケモンが登場したり、化石ポケモンであるタテトプス・ズガイトスが野生で登場したり、古代シンオウ地方でしか出てこないはずのヒスイのすがたのポケモンが登場したりする。つまり、生態系を人工的に管理しているわりには、なかなかガバガバな管理をしているような気もする。学園の生命倫理はどうなっているんだ?

 ポケモンシリーズは、これまでも二項対立的なテーマを描いてきたシリーズでもある。そしてブルーベリー学園に存在する「テラリウムドーム」は、「飼育vs野生」という二項対立的なテーマにもなりうるし、ひいては「自由vs管理」というテーマまで拡大することができる格好の題材となる舞台装置だと思った。ところが、本作ではフィールドは単純に新しいポケモンが出てくる空間としてのみ提示され、さらにはエンドロール後には「パルデアの大穴の奥地のクリスタルを持ってきたらポケモンに影響しました!」というさらに倫理観ガバガバムーブを見せてくるので、モヤモヤする。そして伝説のポケモンであるテラパゴスも、本編新要素であるテラスタルパラドックスポケモンに強く関わるにも関わらず、オマケのような扱いを受けている。プレイヤーにとって、史上最も関りの薄い伝説のポケモンとなった。さいわいアニメでは重用されているので、そっちをみて脳内補完することにします...マルチ展開万歳。ゲームにおいては、よくわからないだけで、テラスタイプ:ステラを導入するために生まれたポケモンという感じ。

 また、シナリオについても、「所詮脇役は脇役のままだ」という痛烈なメッセージが込められている(ように感じた)。前編にてスグリは主人公の強さとあこがれていた伝承上のポケモンであるオーガボンを従える力をみて(まあゲームの主人公だからなんですが)、強さへの憧れを抱く。自分を変えたいという想いで、ブルーベリー学園のチャンピオンまで上り詰める。ただし、ひたむきに強さのみを求めるその姿勢は、リーグ部のほかの四天王との間に不協和音を響かせてしまう。そしてそこに現れた交換留学生としての主人公に、チャンピオンの座を奪われてしまい、そしてそこにかけよってくれる仲間はいない。パルデアの大穴の調査においても、スグリは伝説のポケモンを捕まえて強くなりたいという一新のみにおいて随行する。そしてスグリの行動(と同行したテラスタル大好き教員)によって、テラパゴスは暴走してしまう...。またしても伝説のポケモンを主人公に横取りされるスグリ、エンディングでは自分は脇役であることを自覚して、主役の隣にいる友人であることを選ぶ...。む、胸くそだ......。

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 本編では「スター団」のエピソードを通じて、学園生活の仲間の大切さをお互いに想い合うという視点で描いたのとは対照的に、DLCでは学園生活の仲間の大切さを「孤立」という真逆の観点から描いている。さらにブルーベリー学園には、明確な教育者が生徒の関係性に介入しておらず、フィールドの生命倫理も相まって、なかなか学園への不信感が募らざるを得ない。オレンジ・グレープアカデミーの素晴らしさが際立つ。

 「脇役は決して主役になれない」というこのDLC全体を通じたメッセージを、本編クリア後に学園を休学したスグリの姿をみて思わざるをえない。沢山の子どもたちがプレイするポケットモンスターという作品で、「身の程を知れ」というメッセージを発していいのか?と思ったポンタヌフであった。

 DLC続編があって救われることを祈ります。