中高生視聴必至の教訓映画『トーク・トゥー・ミー/Talk to me』

Prime Video:Talk To Me

 

 予告や宣伝の仕方をみていると、バカなティーンエイジャーが「90秒憑依チャレンジ」をしてその軽率な行為の報いを受ける...というような何か既視感があるようなホラー作品かと思いきや、決してそんなことはなかった。テンポよく非常に観やすい展開で進んでいきながらも、描かれているテーマにもしっかりと奥行きがある非常に良質なホラーであった。しかも、約90分と映画としてちょうど観やすい長さでありました。

 母を亡くした主人公のミアは、母親の二回忌をきっかけに、高校の同級生の間で話題の「降霊術チャレンジ」に参加したいと考える。親友のジェイドとその弟ライリー、ジェイドの彼氏のダニエルとともに、降霊術パーティーに参加するミアたち。フェイクではなく本当の霊と交信できるその降霊術チャレンジの虜になっていくなか、親友の弟ライリーがミアの母親が憑依してしまって......というお話。

 話の根幹にあるのが、若者が「孤独」である。主人公のミアは母親を自殺で失ってしまった事実と向き合うことができず、唯一の肉親である父親ともギクシャクしており、親友のジェイドの家に入り浸っており、ジェイドとの関係性に半ば依存してしまっている。「降霊術チャレンジ」が行われるパーティーに参加しても、その雰囲気にはまったく溶け込めていない。「べたべたと距離を詰めてくるから嫌いなんだよね」と評されるミアの他人への接し方は、きっと誰とも心を許して接することができなかったことを伺わせる。そんなミアが、あるいはミアと、作中でお互いに心を許して接していたのがジェイドの弟のライリーである。昔からの親友はグレてしまい、年の近い姉は彼氏に夢中で相手をしてくれず、両親は仕事や家事で多忙なようでコミュニケーションがうまくいっていない。弟のライリーも孤独を感じながら暮らしている。この2人が今回の映画では、霊に獲りつかれてしまう。

 今作に出てくる呪物である「手」は、向き合いたくない現実によって生じてしまった心の不安や孤独から逃避するために使われる。現実世界ではそれがアルコールやドラッグやオーバードーズなどになるんだろうし、もう少しマイルドなものだとSNSで承認欲求を満たす行為になるんだろう。それも行き過ぎるとと醤油をなめたり冷蔵庫に入ったりして人生が終わるし、あるいはそこまでにならないまでもSNS上の使い方を誤ってしまえば取り返しのつかないトラブルになりうることはあるよね。そういった不安や孤独を抱えているけど上手くそれを吐き出すことができない、だけど誰かと繋がりたい気持ちも抱えている若者たちというのが、誰かと交信するための「手」と「Talk to me」という呪物と呪文に還元されている。悩みはしっかり相談することが大事です、ということで中高大学生に見せたいホラー映画ナンバーワンといっても過言ではないのではないかと思う。道徳の時間にぜひ体育館で放送してほしい。

 本編中で霊に憑りつかれてしまったライリーとミアだが、それぞれの迎える結末は異なる。ライリーは助かり、ミアは助からない。その違いは何かというと、本音を言える相手がそばにいるかどうかである。ライリーは自分の抱える不安や不満を正直に言うことのできる家族や友人がいた(姉に「彼氏のペニスにしか興味がないんだろ!!」と言ったタイミングは最低だけど)。母親はミアに対する病院での態度を謝罪したように、しっかり自分の過ちを認められる家庭だったのだろう。そして、初めて参加した降霊パーティーのあとのようなに、ミアもライリーにとってのその一人だったというのはまあなんとも後味が悪い。そしてミアは、本音を言える相手がそばにおらず、喪った母親の影ばかりを追いかけていた。ライリーからは「僕たちが家族だよ」と言われていたのにも関わらず、ライリーよりもその身体に降霊した母親の霊を優先してしまう。そんなこんなでミアへの呪いが増幅していき、悪霊の唆しによって最悪の結末を迎えてしまう様子は、どこかSNSのエコーチェンバー現象で激ヤバ思想や陰謀論が増幅していく過程とも重なってみえました。SNSに登録するうえで視聴必須のホラー作品である。

 そしてやはりテンポ感と長すぎないのが非常によい。Youtube出身の監督だからにのかはわからないが、ずんずん物語が進んでいく。霊のビジュアルも、おそらく無念のままに死んで成仏できない浮遊霊や自縛霊が降霊されていくので(西洋に同じような概念はあるのか?)、溺死したり縊死したりしたであろう霊も出てくる。そして最後の展開とオチを踏まえた後味の悪さは、これぞホラーという感じでサイコーである。Talk to meのおかげでサイコーのクリスマス週末を迎えることができたポンタヌフであった。