殺人鬼に感情移入をする新感覚のスラッシャー映画『サンクスギビング』

Thanksgiving (2023) Hollywood Movie - Review, Cast, & Story

 

 「Thanksgiving Day」(感謝祭)という祝日は、日本にとってほとんど馴染みがないものであるが、「ブラックフライデー」という言葉は、結構な人が耳にしたことがあるのではないだろうか。日本においては11月後半に諸々セールで値引きされるセールか...くらいだろうが、アメリカにおいては感謝祭の翌日の金曜日を「ブラックフライデー」と呼ばれ、この日には多くの小売店でセールが実施される日である。そんなサンクスギビングデイに起きた惨劇を描くのが、イーライ・ロス監督の最新ホラー映画『サンクスギビング』である。

 イーライ・ロス監督の作品として『グリーン・インフェルノ』を観てゴア表現に良い意味でウオオオオオと感じた思い出と映倫でR18+に指定されたことを踏まえて結構身構えて観に行ったのだが、これが意外にも全編に笑いが散りばめられておりゴア表現もそこまで激しすぎるわけでもなく殺人鬼の復讐譚としても面白い、年末を飾るにふさわしいエンタメ映画として仕上がっておりました。

 この映画の面白い点として、感情移入先が通常とは異なることがあります。だいたいのホラー映画観客は主人公側に感情移入をしつつ恐怖を共有しながら観ることになるのですが、この映画は殺人鬼側に感情移入をすることができるという、珍しいタイプのスラッシャームービーでした。映画の冒頭で、ブラックフライデーセールに押し寄せた民衆によって、モールにて群衆事故という表現じゃ生ぬるい惨劇がはじまってしまう。「オイオイ殺人鬼より怖えよ!!」と思いながら、踏みつけられたりカートに挟まれたりして死んでいく人々を観ていた...資本主義大国のアメリカって今こんなんなんでしょうか...。今回の殺人鬼であるジョン・カーヴァーは、この惨劇に加担した住民たちを殺していく、復讐に身を燃やした哀しき殺人鬼なのでした。そんなこんなでショッピングモールでの惨劇を冒頭30分で見せつけられてしまったあとなので、殺人鬼側に肩入れをして映画を観てしまうというそんな造りでした。

 主人公を初めとする仲良しグループは、スクールカーストの頂点という感じで、まあ周りからはイヤなやつだと思われてそうな感じがする。そして主人公の父親は、その惨劇モールの経営者であり、市長や保安官とも懇意な地元の名家である。冒頭のショッピングモールでの惨劇も、主人公一派がコネを使って先に開店前に店内に入ったのが引き金であったこともあり、主人公たちが追い詰められていく様を、「ざまあ!!」という新しい視点で楽しみながら観ることができた。そしてキルの仕方もウィットに富んでいて楽しめる。文字通りの「半額大出血セール」や「オーブンで焼き殺して七面鳥にする」とか「トランポリン殺し」とか、惜しみないアイデアで復讐をしていく殺人のバーゲンセールがここにある。

 そんなこんなでエンタメとしても面白い本作ですが、「感謝祭」というハレの日に殺人をすることであの日のショッピングモールでの惨劇を忘れ去られないようにしたい、という殺人鬼の動機はそのまま現実世界に重なるところがあるような気もします。物語の舞台は、イギリスから北米への入職者であるピルグリムファーザーズが降り立った街であり、入職者にとっての感謝祭はネイティブアメリカンにとっての死の歴史の始まりなわけであり、しっかりそこは作中でも少しだけ触れられていた。誰かにとっての嬉しい出来事は誰かにとっての悲しい出来事だという再認識をしました。

 ここから猛烈なネタバレ含む。そして、「殺人鬼」は誰なのか? という謎も、しっかりと(というよりもかなり丁寧に)伏線が張られていて考えていくのが面白い。丁寧な伏線のおかげで犯人自体のサプライズはあまり無かったのだが、携帯電話でのビデオ通とか移動のスピードとかを踏まえると、もう1人犯人いませんか? と思ったんですが...。斧を野球のバットみたいに回していたので、もうひとりの犯人がいるなら彼な気がするが、その真相が続編で語られることを期待したい。