スカっとJAPANだけど現実と重ねて陰鬱となる『オクス駅お化け』

 

 深夜の駅のホームって独特の雰囲気がある。死ぬほど残業したあとにJR東海道線のホームでスーツの酔っ払いが喪黒福造のマネをして「ドーン!!」「ドーン!!」と叫びまくっているのを遠めに眺めていたらこちらに近づいてきて「ドーン!!」をやられたことがあるので、深夜のホームの怖さは理解しているつもりだ。4年位前の話だが今思い出してもむかついてきた。今だったらTikTokでネットミームと化していたこと間違いなしなのだが、非常に残念である。

 この映画を観たのはジャケ買い的なアレであり、ポスターと予告の女性の霊が恐ろしくてイイじゃん!!となったため、観たい映画リストにいれて、近くのメジャーなシネコンで上映していないため、わざわざ公開日に有給をとって観に行った。もろもろ言いたいポイントはあるのだが、心の動きを可視化すると、「おっいいじゃん!」「フーンそんな感じね」「お遊戯会か?」「おッ・・・ん?おお!」という感じである。感情を揺れ動かすの映画であるとするならば、ホラーなのに最後スカッとして終わるので、まあ鑑賞したあとの気分は悪くない。そして観終わった後「ジャニーズ事務所?」というキーワードが頭にのこったのである。

 序盤にホームの女性が出てきて、その犠牲者がでるというシーンからはじまる。ワーオいきなり飛ばしてくるじゃん!! この犠牲者の犠牲になり方がなかなかオツなものだった。JR・私鉄各社の自殺防止のホームドアが設置され、なかなか駅における呪殺手段は限られてきているのだが、東京メトロの全面ホームドアにも対抗しうる呪殺方法で合点がいく。この呪殺の前日譚として、主人公であるうだつの上がらない崖っぷちの女性記者が、イチかバチかをかけた記事を書くために、オクス駅の都市伝説を調べていくのだが…。という物語。

 この主人公の描き方は個人的に結果論として好きだった。最初はバズり至上主義のために身から出た錆が出て追いつめられる主人公で、ところどころ「自分は悪くない」という世間一般が記者という職業に抱くネガティブイメージが凝縮されている。また、( ゚д゚)と口が常に空いていてマヌケな若者にすごい見える。そのハイブリッドなので、怪奇現象にも恐れず果敢に飛び込んでいくので物語がサクサク進んでいく。呪いで友達が死んでもケロっとしているように見えたのは草だったし、怪奇現象を前にして「わたしが真実を暴いてやる」という正義感パワーで撃退するのはお見事である。

 『オクス駅お化け』の怪奇現象の真実を暴くため、その事実を記事にしようとするのだが、それを女上司にもみ消されてしまう。そう、女上司もその真実を把握しておきながら、メディアとしての責務を果たさずにもみ消しに加担していたのであった。会社の方針に反したという理由で干されて自宅待機を命じられる主人公。そんななか、オクス駅お化けの人に移せることが発覚する!! 衝撃の展開!! いっしょに調査してきた親友から呪いを移される主人公!! さてどうする!? という終盤の展開はめっちゃ面白い。

 ちなみにこのルール、呪いの真実を知っておきながら4桁の数字を声に出して読ませると呪いが移るという、わりとハードルの低いものである。最後には女上司が自分の手柄として主人公の暴露記事を世に出すので、たぶん駅周辺のフラッシュ暗算教室か何かの教師になれば呪われることなく一生生き続けられる気がする。知らんけど。

 女上司が手のひらをぐりんぐりん返して、主人公の記事を自らの手柄として発表したことにブチ切れる主人公。手段はどうあれ無念の怨霊の恨みを果たすという目的は達成されたからいいやんけ、と思ったんだがそのあたりには触れず、「私の名前がない!!」とブチ切れる軽薄さに笑う。そして怒った主人公は呪いの力で女上司を呪殺し、口を真一文字に結んで笑みを浮かべ変えるのだった…。これはYouTubeのクソみたいなスカっとエピソード系チャンネルやんけ…と思ったが、まあスカッとするのである。

 ただし観終わったあとに「あ~コワかった」とはならないのが残念なところである。序盤の呪殺方法やインタビュイーが実は死んでいたとかおお!と思うような展開はところどころであるものの、ワンパターンなんだよな…。そして究極のネタバレをすると怪異の招待は、大人によって殺された子どもたちの恨みなのであるが、後半になるにつれて直接攻撃をしてくるため姿を現す子どもの特殊メイク姿がなんとも。単品で出てくるならともかく、井戸シーンなんかでは沢山の特殊メイクの子どもたちが出てきて、しかもご丁寧に何人もの憎悪の表情(をつくろうと頑張ってる子どもの顔)がアップになるものだから「お遊戯会か?」とちょっとイライラしてきたのは内緒である。まあ最後のスカっとで忘れられたからいいんだけど。

 この映画をかなーり遠くから眺めると「子どもたちの恨みとメディア」という言葉になってしまうので、エンドロールをみながらジャニーズ事務所の一見が脳裏に浮かんできた。薄汚い大人たちが子どもたちを食い物にするのはいつの時代もどこの場所でも変わらないが、それを救いうるマスメディアはそれ相応に薄汚いという、なんともいえぬ人間の業を見せつけられたようで、現実と重ね合わせて最後は陰鬱とした気分になったので良いホラーだったと思う。