石川出身が災害映画『コンクリート・ユートピア』を観た感想

『コンクリートユートピア』 2024年1月5日公開

 北陸を襲った震災のせいで予期していない文脈を日本において帯びてしまった韓国映画で新年映画始めをしてまいりました。被災地は当方の地元であることもあって、新年一発目の劇場鑑賞映画がなかなか心に残った作品になって良かったです。

 ちなみに『非常事態』『新感染半島 ファイナル・ステージ』と3年連続の新年一発目が韓国映画ということでなんか嬉しかったです!

영화 '콘크리트 유토피아' 스틸컷. 롯데엔터테인먼트 제공

 石川県出身の当方は、元日に発生した震災に多少なりとも心を痛めており、東日本大震災のときよろしく旧Twitterやテレビにかじりついて情報収集をしておりました。これはかなーり個人的な印象であるが、SNS上でのフェイクニュースや他社への悪意の量が東日本大震災の比ではない気がしている。奥能登が寸断されており情報が入ってこないとかSNSの選択肢が増えたとかイーロンマスクに買収されて質が下がったとかいろいろ要素はあるんだろうけれど、非常事態が起きたときは人間の本質がよく見えるようになるんだなあという感じでございます。「人間の本質」というものを照射したのがこの映画でした。

 配給会社が能登半島地震に配慮していただき、「災害による地盤隆起の描写がごさいます。」という注意書きをしてくれており、劇場にもその旨を掲示してあった。実際の災害描写は、「地盤隆起」という言葉で想像できる範囲を超えた激烈な災害描写からはじまり、もはやリアリティラインを大幅に超越しており、少し笑えるくらいのレベルでよかったです。もはや生き残りはいないだろ.......と思ったわけですが、運よく一棟のマンションが倒壊することもなく残ったのであった。住民はもちろん、周囲の人々もそのマンションを目指す...そこで起きる人間模様を描いたサバイバル・スリラー...というお話でした。

 この作品に出ているキャストが、日本でも有名俳優であるイ・ビョンホンや『マーベルズ』に出てきたパク・ソジュン(『梨泰院クラス』は観ていないので後で知りました)、ヒロイン役には存じ上げなかったがパク・ボヨン(キュートです)とキーキャラクターには『今、私たちの学校は...』に主演したパク・ジフが出てくる。おそらく豪華俳優陣で送る!と枕詞をつけてもよいくらいのキャスト陣につき、キャラクターがかなり魅力的に描かれておりました。それもあって、荒廃した世界での130分というフツーは飽きるであろう長尺も飽きずに観ることができたし、中盤以降のひとひねりある展開のおかげで終盤のシーンは前のめりになってしまっていた。

 そのような豪華キャストの演技を楽しんでいたところ、「ん?なんかよく考えると見た目が綺麗すぎね?」と思ってしまったのはご愛敬か。みかんの皮を剥くように地表が剥がれていく激ヤバ災害が起きており、生活用水が明らかに不足しているはずなのに、ヒゲとか汚れがほぼない。どうせなら水の湧くシーンをもっと前半に配置をし、マンションの「ユートピア」っぷりを描いた方が余計な考えは浮かばなかったかもしれない。

 とにかく、マンションでのサバイバル計画をより持続可能なものにするため、マンションの住人たちはあることを決める。それはもともとマンションに住んでいた人以外は外部に追い出す、というものだ。ちなみにソウル周辺は猛烈に寒いので、マンションの敷地から追い出されるイコール凍死を意味する。そしてマンションの住人は、自分たち以外の人間を「ゴキブリ」と呼ぶようになり、ユートピア謳歌していく...。

 ここで描かれているのは、“群れ”の形成過程のようなものだ。どこかで線引きをして、そこから内側は味方で外側は敵とみなす。まあ、どのコミュニティもそのようなものだよね...。特に非常事態の場合は生き残るのために外側に対する排他性とか攻撃性が強くなっていく、という人間の性を容赦なく描いたのがこの作品な気がいたします。能登半島地震をみていても、田舎の過疎地でるSNS上で火事場泥棒に関するデマや流言が飛び交ってるのをみると、関東圏に住む者としていつか来る南海トラフや首都圏直下型地震が怖いんですが...。そんななか、ちゃんとマンションの住人のなかにも、コッソリと外部の人を匿っていたり住民全体の方針に意を唱えたり、人間の性の善の部分も描いているのも印象的でした。まあ、ただし災害描写がひどすぎて、どうしても住民全体の方針に賛同してしまいます...。善性の象徴みたいなのが主人公の奥さんなんですが、綺麗事を言うだけ言って何もしてない(何も危険は冒していない)あたり、少しイライラしたもの事実ではあります。あと実はマンションの住人が外部からも人間を食べる化け物扱いされているのが良かったです。人間は敵をつくって結束するんですね。

 そんな住民側への感情移入を吹き飛ばすのが、住民代表を演じるイ・ビョンホンの背景が明らかになる中盤以降のシーンだ。「住民以外は住民にあらず!」みたいなスローガンを叫んでいた彼は、実はもともと住んでいた住民を殺して成り代わっていたのである。よくよく考えると、序盤の住民会議の際は隅っこに目立たないようにいたり、代表に選べれてからマンションを統べていくまでの表情の変化は、権力にとらわれた人間の内面をとてもよく表現しており、イ・ビョンホンすげ~となりました。彼の権力構造が崩壊するとともに、コンクリートユートピアすべてが文字通り崩壊していく描写には前のめりになって観てしまいました。

 とはいえ、最後にまとめると、「まあこんなもんかな」というディザスタームービーの範疇を超えたかと言われるとそうでもない気はしますが、キャスト陣の魅力と一ひねりある展開によって楽しく過ごせる2時間でございました。炊き出しをしている来るもの拒まずの理想的なコミュニティが最後に出てくるのですが、もうこれを書くのが3回目くらいだけどあの災害じゃこんなコミュニティが出来ないはずないだろ...みたいな冷めた目で見てしまいながら、主人公が「あのマンションの人はどんな人たちだったの?」という質問に対するアンサーが最高だったので、マイナスポイントはすべて忘れました。

(2024年1月5日劇視聴/2024年新作1作目通算2作目)