ドラマ「新聞記者(2022)」を観た:社会人に刺さるフィクション。組織のなかで生きることの苦しみについて
Netflixでの配信ドラマ「新聞記者」を観たので、備忘のために感想を書く。
作品メモ
「新聞記者」2022年1月13日配信 全6話 Netflix
テレビで観た
報道に対して強い信念をもつ新聞記者が挑むのは、政府の汚職疑惑をめぐる深い闇。巨大権力の圧力にも屈することなく、真実を暴くことはできるのか。
観た理由
・夕食時のお供として妻がピックアップしたから。
感想
人は誰しもが組織の一員として生きている。大小さまざまな組織があるものの、大きく自分自身が影響を受けるのは、職場である。よくよく考えるとそりゃそうである。1か月のうちどのくらいを仕事に費やしているか? 僕の場合は、先月の残業時間が40時間ほどなので、睡眠時間を除くと、1か月のうち45%ほどは仕事に費やしている。サラリーマンであれバイトであれ公務員であれ、誰しもが組織に身をささげて組織の中で生きている。
このドラマは、「組織のなかで生きることの苦しみ」をメインテーマに置いていると感じた。個々の信念は、ときには組織の中の論理と対立してしまう。新聞社における、ジャーナリストとしての矜持vs会社の論理。官僚機構における、国家公務員としての矜持vs政治の論理。このあたりの葛藤が強く描かれている作品であった。このあたりを体現した最終話の第6話での綾野剛演じる国家公務員村上のセリフはどこか胸熱で、共感できた。「上の決定で下がどれだけ苦しんでいるかあなた分かってるんですか!?」
上記のような普遍的な、誰しもが共感するテーマと、それを彩る映像演出の数々が素晴らしい。Dolby対応のBRAVIAで観ていたので、いわゆる映像美を浴びている感覚であった。僕は基本つらつらと感想を書くだけで技法のことはわからないのだけど、すげー映像だなーと感じた。さらに、題材である。日本国民であれば程度の差はあれど認知している実際の出来事をモチーフにしているので、すっ…と入ってきやすい。首相答弁はもはやモノマネといっても差し替えないほどで笑ってしまう。
「普遍的なテーマ×美しい映像演出×有名なモチーフ」によって、日本のNetflixの視聴数ランキングで上位に来た理由であろう。
とはいえ、本作はフィクションであることを念頭に置かなければならない。「普遍的なテーマ×美しい映像演出×有名なモチーフ」という掛け算が視聴された理由だと考えているが、「有名なモチーフ」は諸刃の剣なんだろうなと思う。
官邸や官僚機構がもはやヴィランの悪の組織として描かれている。個人的にはこの悪役っぷりはスゴイ好みなのだが、あくまでフィクションである。内閣情報調査室が「節電でもしてるのか?」とツッコミを入れたくなるくらいめちゃくちゃ暗い人間味の職場働いているのもあくまで演出の一環である。それぞれの関係者の葛藤や苦悩も、あくまですべてはドラマのなかの出来事で、真偽のほどはこのドラマからはわからない。
「有名なモチーフ」はそのままなぞらなくてもよかったのでは、と思ってしまう。「改竄」ということだけ持ってきても面白かったんじゃないかな。このドラマで描かれたフィクションを事実かのように批判することもないし、このドラマで描かれたフィクションで満足して実際の出来事が流れていくこともないし、こういう記事のような話になこともない。
作品としては面白いのに、作品の内容ではない部分で観られなかったりすることは残念だ。最終話での「あなたはなんでこの仕事を始めたのですか?」という問いは、誰の胸にも刺さることなので。自分にうそを付いて犠牲にしてまで組織に尽くす必要はないのだ、と、この作品を見て僕はどこか晴れ晴れした気持ちで仕事に臨めるようになったので。