映画「ハケンアニメ!(2022年)」を観た:私の想像が勝ってあなたの感動になるまで

 

作品メモ

ハケンアニメ! 2022年5月20日公開(金) 128分 監督:吉野耕平

先週の土曜日に観たけど忙しくて書けなかったから、しばらく経った今ハイボール飲みながら酔った勢いで感想を書いていく

最も成功した作品の称号を得るため熱い闘いが繰り広げられている日本のアニメ業界。公務員からこの業界に転身した斎藤瞳(吉岡里帆)は、初監督作で憧れの監督・王子千晴(中村倫也)と火花を散らすことになる。一方、かつて天才として名声を得るもその後ヒット作を出せず、後がない千晴はプロデューサーの有科香屋子(尾野真千子)と組み、8年ぶりの監督復帰に燃えていた。瞳はクセが強いプロデューサーの行城理(柄本佑)や仲間たちと共に、アニメの頂点「ハケン(覇権)アニメ」を目指して奮闘する。

movies.yahoo.co.jp

観た理由

・『フォーエバーパージ』と迷ったが仕事で陰鬱とした気持ちになっていたのでそのあたりのキモチを変えてくれるのはこっちの映画かと思ったから。

 

感想

 『ハケンアニメ!』と聞いて、どんな漢字を思い浮かべるだろうか。私が真っ先に思い浮かべたのは、「派遣アニメ!」であった。なぜか自問自答してみる。派遣とは派遣労働制度のことをイメージした。小泉改革構造改革により、派遣法が改正から全ての業種に派遣労働制度が適用された。2000年代には、「派遣村」「派遣切り」などのワーキングプアの問題が取り沙汰され、派遣労働とは即ち労働問題である、というパブリックイメージがついて回る現状があるという印象を持つ(もちろん、私の職場の仲良いお姉さんもそうなのだけれど、派遣労働制度を活用して自らが望む働き方を実現している労働者もいる)。そしてアニメ業界の労働環境は、低賃金長時間労働という過酷なものであると取り沙汰されている。同時並行に各話を製作するという並行作業や多重的な請負契約構造・フリーランス契約のスキーム、あるいは職務能力が非定量的であることなど、アニメ業界には労働問題が根深く存在する。ちなみに大学時代に読んだ『ミッキーマウスストライキ!』という書籍には、アメリカのディズニーアニメの勃興くらいの時代からのアニメ業界の労働問題を描いてあり、かなり良い書籍でございます。ということで私がこの映画のタイトルを観て、「派遣」という感じを思い浮かべた理由は、アニメ業界が労働問題とは不可分の関係にあるからである。それゆえ、アニメが好きである以上、その感動や楽しみの裏にはそのような影の部分があることに自覚的に在らねばならない、と思っているからだ。(これはエンタメ産業、と拡大解釈することもできるかもしれない。)

 

 ということで、私はこの映画は、今をときめく役者を起用してアニメ業界の労働問題を明るみに出す硬派な社会派ムービーだという一方的な思い込みがあったわけだけれど、どうやら「派遣アニメ!」ではなく「覇権アニメ!」であることに気づいた。なるほどアニメ業界で覇権を競い合ういわゆる『バクマン。』的な映画というわけか。劇中アニメもかなりのクオリティで製作されているようだ。これはこれで面白そうだ! ということで、「作品メモ」にも記載したとおり、視聴時のメンタルの状況が後ろ向きだったこともあり、前向きなキモチになれるかなとも思い、映画館に足を運んで土曜の朝イチの回で鑑賞いたしました。

 結論:「誰かと何かを努力して成し遂げることは美しい!!抱け自分のプロフェッショナリズム!!マジで途中から涙が止まらない素晴らしいエンタメムービーである!!」 ・・・という感想を抱いた。なんか前段の記載をみると皮肉のようにも思えるけれど、これは率直な感想であるし、おひとりさまで号泣して帰り際はマスクが湿っていて買い替える必要になったのも事実である。「う~んここまで涙を流したのはマジででいつ以来だろうか?」というような感じで、劇場出るときにはいろいろと意味でメンタルケアが為されてスッキリした気持ちになり今週がんばれているのも事実だ。サンキュー映画。エンタメって素晴らしい。

 この映画は、吉岡里穂が演じる新人監督の斎藤瞳が主人公である。この映画は、主人公瞳の視点を通じて、「プロフェッショナリズムとは何か?」というテーマをいわゆるコミック的な演出でわかりやすくベッタベタに描く。したがって、登場人物は噂話をされている場面によく出くわすし、嫌なことがあると雨が降る中を走りだしてお約束のように転ぶし、変なところにアドバイスをくれるライバルは現れるし、役者陣の演技もややわざとらしい印象を受ける。とはいえ決してそれは作品にとってマイナスになってはいない。そのコミック的演出が、登場人物が抱く熱意を底上げして伝えてくれる。そこに畳みかけるお涙頂戴シーン・・・泣かないわけがなかったのである。

 つまるところこの映画で描いているのは、それぞれはそれぞれのプロフェッショナリズムに基づいて仕事をしている、ということだ。主人公の瞳は、序盤では、プロデューサーや編集スタッフ、アニメーターと上手くいかない。「自分が代打の新人監督だからだ・・・」というふうに思い込むわけだが、いろいろな経緯を経て、自分自身の原点と向かい合い、瞳なりのプロフェッショナリズムを発露していく。そして最終的には、お互いのプロフェッショナリズムを尊重しあうチームを率いて成長していく、という物語である。この映画では、「仕事とは、互いのプロフェッショナリズムを尊重し、自己のプロフェッショナリズムに基づいて遂行するチームワークである」というテーマが込められている。ここまでプロフェッショナリズムって何回言ったんだろう?

 働いている以上、この込められたテーマに心を動かされずにはいられなかった。手を抜いて働いている人なんていなくて、それぞれ自分なりに意識をもってかんばっているんだ。それをチームで成し遂げたときに感動が生まれるんだ。う~ん素晴らしい。逆説的にはそれが無くなったときは潮時ということで、この映画を観たことで当方は本格的に転職活動者となりました。そういう意味では、人生を動かした映画といえるのかも?

 とはいえ、その心が動されるのは、この映画がエンタメムービーであるからだ。だから、自覚的にコミック的描写を入れてベッタベタの展開で描いたのだと信じている。冒頭に書いたように、実際の世界はそこまでは美しくはない。ここで描かれた仕事観には賛同するし感動もするが、一歩間違えれば「やりがい搾取」の名のもとに人材を使い捨てる有力な根拠になりかねないし、これまでと今もそのように苦しんでいる人はいるはずであるからだ。我々エンタメの受け取り手は、その感動にあるものに自覚的であらねばならない、とチョー遠回りに促してくる映画であった。

 そしてさらに特筆すべきは、ジェニーハイの主題歌の『エクレール』である。映画を観た後、誇張抜きにこの曲しか聞いていない。すげーボップなサウンドに物語を投影した歌詞、キュートな歌い方とゲストボーカルの高野麻里佳・・・。「私の想像が勝って あなたの感動になるまで」とかいう誰でも書けそうで誰にも書けない歌詞・・・川谷絵音は改めて素晴らしいと実感した空母ポンタヌフであった。

 

www.youtube.com