悪魔祓いインフレについていけてない『エクソシスト:信じる者』

Review: 'The Exorcist: Believer'

 

 悪魔祓い映画が激熱の2023年...。死霊館フランチャイズの最新作である『死霊館のシスター2』や『ヴァチカンのエクソシスト』などが席巻するなか、年末には元祖悪魔祓い映画の続編である『エクソシスト:信じる者』が公開されました!! インディ・ジョーンズやらゴーストバスターズやら過去のIPが蘇る昨今のハリウッド映画ではあるが、どんな仕上がりなのかワクワクして鑑賞しました。

 が!! やはり1973年代当時に『エクソシスト』が評価されたのは、悪魔祓い映画としてのジャンルのパイオニアであり、かつそれが素晴らしく模範になる内容だったからである。ポルターガイスト現象や悪魔憑きの描写、そして大事な人と日常が静かに侵食されていく恐怖。このあたりを映像的に説得力のある表現と演出で描いたからこそ、初代『エクソシスト』は名作として評価されている(のだと思う)。そして時は流れ映像技術も進化し、人々の価値観も変わっていった。時が流れるにつれて、少年マンガの登場人物もしかり、対戦ゲームやカードゲームもしかり、そして経済もしかり、すべての物事はインフレしていくのだ。悪魔祓い映画であってもそれは例外ではない。

 『死霊館のシスター2』では、もはや最終的には大怪獣大場荒れ的な演出もあり、建物がブチ壊されていく。『ヴァチカンのエクソシスト』では、除霊シーンで大暴れポルターガイスト現象が置きまくりモノだけでなく人も宙を飛び交う暴れっぷりだ。そんなふうに昨今の悪魔もインフレの波にのまれてサービス精神が旺盛ななか、本作の『エクソシスト:信じる者』は、なかなか初代に忠実にやっている。たとえる中、スマブラSPをプレイしたあとに初代スマブラをプレイするような感じ。よっぽどのファンなら楽しめるだろうが、一般ユーザーにとっては全部載せの最新作をプレイしたあとに初代をプレイすれば物足りなさを感じてしまう。そう、ちょっとした物足りなさを感じてしまったのである。たしかに、健気な子どもが邪悪に変貌していく過程や、悪魔の精神攻撃や、サブリミナル的に差し込まれる悪魔の印影など、初代エクソシストを踏襲しつつ進化した表現もあるものの、昨今のインフレに慣れてしまった身からすれば、もっとやってもらってもいいのではという気もした。よくいえば初代に忠実であり、悪く言えば少し物足りない、そんな悪魔まわりの描写でした。

 そして、個人的に印象に残ったのは、初代エクソシストでの被害者の母であるクリス・マクニールが主人公に語ったことでした。「キリスト教イスラム教、ゾロアスター教から死海文書にまで、古今東西どのような宗教にも悪魔祓いの呪文はある。その本質は、神そのものを信仰することよりも、集まる家族・近所の人・知らない人の人々の繋がりを信じることにある」みたいなことを主人公に語るわけだが、どうもこのフレーズが印象に残っている。作中で教会はエクソシズムの不許可を出し、自分たちでどうにかしなきゃならない状況に陥るわけだが、これまで出会った人々の力を結集してヴィジランテ・エクソシズムを決行する。誓師いを立てる前に道を外れたシスターや教会の神父、アフリカにルーツを持つ呪術師、そして西洋近代医学…。「なんとかしたい」と思う人々が協力してありとあらゆるリソースをぶち込む悪魔祓いシーンは、なかなか面白かった。新しいエクソシストシリーズは三部作らしいので、これを発展させて三部作の最後では、ラスボスの大悪魔に対して、キリスト教イスラム教・ゾロアスター教・仏教・ユダヤ教などの古今東西の宗教とお互いの信徒を信じ合う心で立ち向かう世界平和エンドを頼むからやってほしい。

 そう考えるとサブタイトルであるBelieverというのもなかなか腑に落ちる。悪魔祓いの肝となるのは、やはり「人を信じる心」であったことが強調される。なんなら呪われた子であるキャサリンは牧師の娘であったが、神聖なる教会で悪魔憑きの発作が起き、キリストの血肉であるワインとパンを貪り大暴れする。後半のエクソシズム不許可のシーンも踏まえると、なんだかんだ信仰一本頼みは頼りにならないというメッセージな気もします。また、救われなかった子どもの父親は、「人を信じる心」を持ってないような描かれ方をしていた。序盤の行方不明シーンでも「異教の呪いをやったんだ」という発言やアフリカ呪術師の祈祷に対して「何をやっているんだ」というシーンがあり、そして極み付け抜け駆け!! 「Deceiverたる悪魔に立ち向かうには、Believerにならないといけない」という、これはなかなか今の世の中に刺さる普遍的なメッセージなのではないか? と思った次第です。

 あとは、こういう有名作の最新作は、テーマソングが流れるところでテンションが上がるので良かった。テテンテテンテテンテテンテンレレンテンテテン........